特別講演


中野 伸一(なかの しんいち)
京都大学生態学研究センター教授/センター長・国立大学附置研究所・センター会議会長

講演タイトル
 湖沼や海洋のプランクトン食物網において機能する微生物の食物連鎖

講演概要
 湖沼や海洋の植物プランクトンは、光合成の中間代謝物や自己の分解物として溶存態有機物(DOM)を排出する。このDOMは細菌の餌資源となり、DOMにより生産された細菌バイオマスは原生生物の餌資源となる。このように、DOMから細菌を経て原生生物へとつながる食物連鎖は、微生物ループと呼ばれている。湖沼や海洋の沖帯におけるプランクトンの食物網では、従来から良く知られている植物プランクトンと動物プランクトンとの食物連鎖(生食連鎖)と微生物ループとの働きによる物質循環が駆動している。従来、微生物ループは光合成による有機物生産を起点としていることから、その研究のほとんどは太陽光が透過する光合成が活発な表水層において行われてきた。一方、湖沼の最下層で底泥を含まない深水層は、太陽光が届かず、水温も低く、生物の現存量・生産が低いために、多くの研究者の注目を受けることが無かった。我々の研究グループは、琵琶湖の深水層において表水層とは全く異なるタイプの微生物ループが存在することを世界に先駆けて発見し、さらに国内外の他湖沼の深水層においても同様の微生物ループの存在を明らかにしつつある。本講演では、湖沼や海洋で機能する国内外のさまざまな微生物ループを紹介すると共に、近年明らかになりつつある湖沼の深水層で特異的に発達する微生物ループを紹介する。



畑澤 順 (はたざわ じゅん)
公益社団法人日本アイソトープ協会 専務理事

講演タイトル
 原子の力を医療へ:医療用RI供給の現状と新しい核医学がん治療 

講演概要
 アルファ線やベータ線を放射する放射性同位元素(RI)を利用した新しいがん治療に関する研究と診療が世界的に進展している。我が国は医療用RIの多くを海外からの供給に依存しており、海外炉の老朽化やCOVID19感染症の影響で調達が極めて不安定な状況にある。ヨウ素131(甲状腺疾患)、ラジウム223(前立腺がんの骨転移)、アクチニウム225(前立腺がん)、ルテチウム177(神経内分泌腫瘍)等の診療が制限されている。また、疾患の画像診断のために年間110万件近く行われるSPECT検査でもその多くを占めるモリブデン99/テクネチウム99mの供給リスクが高まっており、すでに供給不足が発生している。このような状況の中で、研究用および医療用RIの国内製造が模索されている。2022年5月に内閣府原子力委員会から発出された「医療用等ラジオアイソトープ製造・利用促進アクションプラン」に基づいて、その基盤整備が進んでいる。医療側のニーズと供給側への期待について述べる。


ELPHシンポジウムは電子光理学研究センター共同利用成果報告会として毎年開催されています。 

皆様の参加をお待ちしております。